肝がんの治療方法
他臓器では治療方法の選択にステージ分類が重要視されますが、肝がんの場合は、がんと慢性肝疾患という2つの病気を抱えている場合がほとんどで、治療後に残った肝臓が体に必要な働きを十分行ってくれるかどうかという点も重要になります。
肝がんの治療では、この点を評価する「肝障害度分類」と「ステージ分類」によって適切な治療方法を選択します。
肝障害度の分類
肝臓がどのくらい障害されているかを分類する基準として「肝障害度分類」と「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類」の2種類があります。
肝障害度分類
日本肝癌研究会が「原発性肝癌取扱い規約」でまとめた肝障害度分類です。
AからCの3段階で肝障害の強さを示し、2項目以上があてはまる肝障害度に分類します。
また、2項目以上があてはまる肝障害度が複数あった場合には、より高い肝障害度に分類することになります。
障害度
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A
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B
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C
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腹水 | ない | 治療効果あり | 治療効果少ない |
血清ビリルビン値(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dL) | 3.5超 | 3.0~3.5 | 3.0未満 |
ICGR15(%) | 15未満 | 15~40 | 40超 |
プロトロンビン活性値(%) | 80超 | 50~80 | 50未満 |
Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類
Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類は、肝硬変の重症度を判定するのによく用いられます。
これは、チャイルドとピューの2人の研究者が考案した分類法で、血清ビリルビン、アルブミン、腹水の有無、肝性脳症の有無、プロトロンビン活性値(肝臓でつくられる血液を固める作用をもつたんぱく質の検査)の5項目から肝臓の障害度を評価するものです。
ポイント(Child-Pugh分類)
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1点
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2点
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3点
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肝性脳症 | なし | 軽度 | 時々昏睡あり |
腹水(mg/dL) | なし/td> | 少量 | 中等量 |
血清ビリルビン(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン(g/dl) | 3.5超 | 2.8~3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40~70 | 40未満 |
この表により、「5-6点:Grade A」「7-9点:Grade B」「10-15点:Grade C」と分類します。
肝細胞がんの治療
肝がんは、「肝細胞がん」と「胆管細胞がん」がありますが、その95%は肝細胞がんです。
肝細胞がんの治療は、「がんの個数」「大きさ」「血管への拡がり」「他の臓器への転移」のほかに、肝機能の程度などを考慮して患者さん個々に決定されます。
大きく分けて、「手術療法」「局所療法」「塞栓療法」「その他(化学療法など)」「新しい治療法(分子標的治療薬による治療)」に分けられます。
以下に、日本肝臓学会による「JSHコンセンサスに基づく肝細胞がんの治療アルゴリズム2010」を掲載します。
Vp1:門脈第2次分枝より抹消に侵襲(腫瘍栓)あり、Vp2:門脈第2次分枝に侵襲(腫瘍栓)あり
Vp3:門脈第1次分枝に侵襲(腫瘍栓)あり、Vp4:門脈本幹、対側の門脈に侵襲(腫瘍栓)あり
ミラノ基準:腫瘍径3㎝以下で個数3個以下、もしくは単発で5㎝以下
ソラフェニブ:肝細胞癌・腎癌に対して用いられる分子標的治療薬のひとつ
手術
肝がんの手術には主に「肝切除」と「肝移植」があります。
肝切除
がんとその周囲の肝臓の組織を切除して取り除く治療で、肝切除をするかどうかはがんの大きさや位置、がんの数や広がり、そして肝機能の条件などによって決められます。
一般には、単発で比較的大きながんや1個または少数のがんで、肝臓の機能が保たれている場合には肝切除が行われます。
腹腔鏡下肝切除
腹腔鏡手術とはおなかに5~12㎜の穴を数か所開け、そこから手術用の細長い内視鏡や手術器具を入れてモニターを見ながら行う手術です。
肝臓の腹腔鏡手術はその難しさのため普及が遅れていましたが、経験の豊富な施設で行う腹腔鏡下肝切除が保険の適応となり、腫瘍がひとつで大きさ3cm以内で肝臓の表面や肝臓の左の端のほう(肝左外側領域)に存在する場合に行われる施設もあります。
肝移植
肝がんに対する肝移植は、がんが単発で5cm以下、または3cm以下で3個以内という「ミラノ基準」を満たす場合に選択が検討されます。
日本では、脳死肝移植は法的には認められていますが、提供者の不足などによって実際にはほとんど行われておらず、主に近親者からの一部提供による肝臓を移植する生体肝移植が大学病院を中心に行われています。
肝移植の年齢制限は65歳以下とする場合が多く、肝硬変などのために肝切除などの局所治療が困難な場合に選択を検討します。
局所療法
肝がんの局所療法は、体の外から針を刺してがんに対して局所的に治療を行う方法で、「穿刺療法」ともいわれ手術に比べて体への負担の少ないことが特徴です。
肝がんの局所療法は通常、がんの大きさが3cmより小さく3個以下の場合に行われます。
ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)
ラジオ波焼灼療法(RFA)は1999年に日本に導入され、2004年に健康保険の適用となりマイクロ波凝固療法にとって代わってきました。
RFAは、皮膚から針を肝がん部分に刺してAMラジオ並みの高周波で患部を70~100℃にして焼いて死滅させる治療法です。
焼灼時間は10~20分程度で、腹部の皮膚の局所麻酔や焼灼で生じる痛みに対して鎮痛剤投与や軽い静脈麻酔を行います。
ラジオ波焼灼療法(RFA)は、エタノール注入療法に比べて少ない治療回数で優れた治療効果が得られることから、最近の局所療法ではラジオ波焼灼療法が主流となっています。
エタノール注入療法
エタノール注入療法は、腹部超音波(エコー)を画像を見ながら皮膚から直接肝がん部分に直径1㎜程度の針を刺し、純度100%のエタノールを注入して肝がんを壊死させる方法です。
治療の対象となるのは、がんの大きさが3㎝以内で3個以下が基本です。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
肝動脈化学塞栓療法(TACE)は、進行肝がん(中期から末期)の標準治療として行われています。
治療は、足の付け根の動脈から細いカテーテルを挿入し肝動脈まで送り込み、そこに抗がん剤と共に詰め物(ゼラチンスポンジ)をして肝動脈の流れを遮断します。
肝動脈を塞栓することで、がん細胞へ栄養が届かなくなり兵糧攻めにします。
肝動注化学療法(HAIC)
肝動注化学療法(HAIC)には、カテーテルを肝動脈に挿入して血管造影をしながら一回だけ抗がん剤を注入する方法と、カテーテルを体内に留置して継続的に注入する方法があります。
継続的に抗がん剤を注入する方法では、大腿部の付け根の動脈からカテーテルを通し肝動脈まで進めた後、皮膚の下に埋め込んだ器具(リザーバー)に接続し、抗がん剤はこのリザーバーを介して肝動脈に注入されます。
これら2つの方法は、抗がん剤がほかの臓器などに流れていくことが少なく、確実に肝がんに到達してがん細胞を殺し効果を発揮するという特徴があります。
殺細胞的作用を有する抗がん剤の量が少なくてすむことから、全身投与した場合と比較して副作用の頻度や程度が低いと言われていますが、施設間で手技や注入する薬剤も異なることから、その有効性についての確立したエビデンスは今日に至るまで報告されていないのが現状であり、その構築が待たれます。
放射線治療
肝がんでの放射線治療は、骨に転移したときなどの疼痛緩和や脳への転移に対する治療、血管(門脈、静脈)に広がったがんに対する治療などを目的に行われることがあります。
近年、陽子線や重粒子線などの放射線を当てる範囲を絞り込める放射線治療が肝がんの治療に有効と考えられています。
抗がん剤治療(化学療法)
骨などへの転移があって痛みが強かったり腹水がたまっておなかが張る、足のむくみが強い、肝機能が悪いために肝臓に負担をかける治療を行うことが難しい、などの場合には、がんそのものへの治療よりも、つらい症状の原因に応じて生活の質を維持することに重点を置いた治療が行われます。
ご自身やご家族やお知り合いが「がん克服」を模索しておられるようでしたら、ぜひ一度ご相談ください。長年の経験と実績を基にお役に立てるはずです。
がん克服事例
私が実際に受けてきた相談事例をご紹介しています。
また重複しますが、「末期がんの事例」と「現在継続中の事例」もピックアップしました。
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