乳がんの治療方法
乳がんの治療方法は大きく分けて、「局所治療」と「全身治療」があります。
そして、乳がんは「全身疾患」として治療を決定していくのが近年の標準となっています。
局所治療は「手術」とそれに追加した「放射線治療」、
全身治療は「抗がん剤治療」「ホルモン療法」「分子標的治療」などが行われます。
乳がんの治療ではステージ分類が全てではなくなり、「がんの性質」にも重点が置かれるようになってきています。
以下に、日本乳癌学会編「患者さんのための乳がん診療ガイドライン(2009)」を参考に作成したフローを掲載します。
上の図のステージ分類については、乳がんのステージ分類を参照してください。
手術
近年の乳がん治療は、上の図のように手術に薬物療法や放射線治療をいくつか組み合わせた集学的治療が中心です。
手術だけで治せるのはステージ0期の非浸潤がんだけですが、再発を予防するためにホルモン療法を行う場合もありますし、乳房温存の場合は術後に放射線治療が必須となります。
乳房温存術
乳房温存術は、腫瘍から1~2cm離して乳房を部分的に切除します。
乳房温存術はがんを確実に切除し、しかも美容的に患者さんに満足できる乳房を残すことを目的に行い、現在では手術の約60%が乳房温存術となっています。
乳房温存術を受けられる条件については一般的にシコリが3㎝以下ですが、術前薬物療法によって患部を小さくして乳房温存術が可能となる場合もあります。
ただし、術後の放射線治療が必須と考えられているため、妊娠中の人や重度の強皮症など放射線治療が受け入れられない人はほとんど対象となりません。
また、がんが手術前の予想よりも拡がっている場合は、乳房を全部切除する乳房切除術に切り替えることもあります。
単純乳房切除術
がんのできた側の乳房を全部切除しますが、わきの下のリンパ節の切除は行わない手術です。
胸筋温存乳房切除術
最も一般的な乳がんの手術方法で、がんのできた側の乳房を全部切除するのと同時にわきの下のリンパ節を切除します。
場合によっては、胸の筋肉の一部分を切り離すこともあります。
胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)
乳房とわきの下のリンパ節だけでなく、乳腺の下にある大胸筋や小胸筋を切除します。
以前はこのハルステッド法が標準的手術方法として行われてきましたが、最近ではがんが胸の筋肉に達している場合に限り行われています。
センチネルリンパ節生検
センチネルとは「見張り番」という意味で、乳がんのリンパ節転移で最初にがんがたどりつくリンパ節が「センチネルリンパ節」です。
そのセンチネルリンパ節を手術と同時に取って調べ、がんが転移していなければそれより先のリンパ節への転移はないと考え、それ以上のリンパ節の切除は省略しようというのが「センチネルリンパ節生検」の目的です。
センチネルリンパ節に転移があった場合は「腋窩リンパ節郭清」を行い、わきの下のリンパ節を含むわきの下の脂肪組織も切除します。
腋窩リンパ節郭清は乳がんの領域でのリンパ節再発を予防するだけでなく、再発の可能性を予測し、術後に薬物療法が必要かどうかを検討する意味で非常に重要です。
腋窩リンパ節郭清を行うと、手術をした側の腕にリンパ浮腫(むくみ)が出たり肩の痛みや運動障害が起きる場合もあります。
乳房再建術
乳がんを切除する手術で失われた乳房を自分の筋肉や脂肪を利用したり、または人工物である「インプラント」を使用して乳房を再建する手術です。
インプラントによる乳房再建が2013年7月から健康保険の適用になり費用負担のハードルが下がり、同時再建の適応も広がると考えられます。
術前薬物療法
乳がんが少々大きすぎたりリンパ節への転移があるような場合や大き目のしこりを小さくして乳房温存手術ができるようになるかどうかを検討する場合には、術前薬物療法を行います。
術前薬物療法は、「抗がん剤治療」「ホルモン療法」「分子標的治療」の中から乳がんの性質に応じて有効なものを選択して単独または併用で行われます。
乳がんの性質は、「ホルモン受容体が陽性か陰性か」「がん細胞表面にHER2タンパクがあるか」「ホルモン受容体陽性・HER2陰性タイプは、がんの増殖能の高低」によって主に以下の5つのタイプに分類され、それぞれのタイプに合う薬物療法が決められています。
- ルミナールA
- ホルモン受容体陽性、HER2受容体陰性、がん増殖能は低い
- ホルモン剤によるホルモン療法
- ルミナールB(HER2陰性)
- ホルモン受容体陽性、HER2受容体陰性、がん増殖能は高い
- ホルモン剤と抗がん剤の併用
- ルミナールB(HER2陽性)
- ホルモン受容体陽性、HER2受容体陽性
- ホルモン剤と抗がん剤と分子標的薬の併用
- トリプルネガティブ
- ホルモン受容体陰性、HER2受容体陰性
- 抗がん剤による化学療法
- HER2タイプ
- ホルモン受容陰性性、HER2受容体陽性
- 抗がん剤と分子標的薬の併用
ただし、ステージによっては、1.のタイプでもホルモン剤と抗がん剤の併用もあり、一律ではありません。
予後予測遺伝子検査
前記の5タイプのうち自分がどのタイプなのかを知るために「予後予測遺伝子検査」を行うことでより的確な薬物療法を受けることが可能です。
しかし、予後予測遺伝子検査は健康保険の適用外のため、費用が約40~50万円前後必要です。
化学療法(抗がん剤治療)
乳がんの抗がん剤治療は、検査の結果からホルモン療法や分子標的治療が効きにくいと予想されるときや手術後の再発の可能性を下げるなどの目的で行われ、通常は複数の抗がん剤を組み合わせて繰り返して治療を行います。
抗がん剤治療では副作用が問題となりますが、最近は副作用の予防法や対策が進歩しており、1~数週間おきに外来通院しながら治療を受けることが多くなっています。
ホルモン療法
乳がんは「ホルモン受容体」の「エストロゲン[ER]」と「プロゲステロン[PgR]」があるものとないものに分けることができます。
「ホルモン受容体」のある乳がんは、女性ホルモンの刺激ががんの増殖に影響しているとされていますので、女性ホルモンの分泌や働きを妨げることによって乳がんの増殖を抑えることが可能で効果が期待できます。
ホルモン受容体の有無は病理検査によって確かめられます。
ホルモン療法で使われる薬剤のほとんどは内服薬で、治療の目的や使う薬の種類によって治療期間や効果の目安は変わりますが、手術後に行う場合は5年間の治療が目安となります。
分子標的治療
分子標的薬はがんの増殖にかかわっている物質を標的にして、その働きを妨害する薬です。
分子標的薬にはさまざまな薬剤がありますが、乳がんでは細胞の表面にあって乳がん増殖にかかわっていると考えられるタンパク質(HER2:ハーツー)の働きを阻害する物質である「トラスツズマブ」や「ラパチニブ」といった薬剤が使われています。
病理検査でHER2が陽性であることがわかると治療が検討されます。
放射線治療
放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を体の外から照射してがんを小さくする効果があり、乳がんでは手術後の再発のリスクを下げるために、乳房温存術の後や乳房切除術で病変が大きい場合、または腋の下のリンパ節に広がっている場合などに行われることが多くなっています。
また、がんの増殖や骨転移に伴う痛み、脳への転移による神経症状などの症状を緩和するために行われることもあります。
ご自身やご家族やお知り合いが「がん克服」を模索しておられるようでしたら、ぜひ一度ご相談ください。長年の経験と実績を基にお役に立てるはずです。
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